その街には、恋人が仲良く暮らしておりました。
少年の名前をキュロ、少女の名前をリマといい、
おたがいのことを、とてもとても愛しておりました。
キュロの愛は甘いお砂糖、
ときにヒトデのようにぴったりとして、
よりかかってもこわれない愛です。
けれど、リマの愛は鋭利なナイフ、
愛する人を傷つけ、その傷が愛されている証なのでした。
キュロはたくさんの数え切れない傷をかかえ、
したたる血をなめながら、幸せそうに微笑むのです。
するどいナイフは、キュロの身体を刻んで、
たくさん刻んで愛を伝えました。
キュロの赤い血が、だんだん失われてゆくのを見て、
リマは悲しくなってくるのでした。
ふたりの恋人は、とても愛し合っています。
けれどリマがそばにいることで、
キュロの命は短くなってゆくのです。
ついにキュロが真っ青になって倒れ、
意識を失ってしまった日に、
リマはその手を握り、涙を流しました。
光る涙がこぼれても、ナイフはキュロを狙っています。
リマは、ナイフに魔法をかけました。
ナイフを三日月にかざし、ちいさく呪文を唱えます。
三日月の光をきらきらとあびて、
愛するものを切り裂くナイフから、
憎むものを切り裂くナイフになりました。
憎むものを切り裂くナイフはまっさきに、
リマの胸を突き刺しました。
リマのあふれる赤い血は、
キュロの身体にしみこんでゆきます。
リマは氷の棺にかくれ、静かに息をひきとりました。
ようやく目覚めたキュロの目に、氷の棺は見えません。
キュロはリマを探します。
どこにも見つかるはずもなく、
けれどリマは死んでしまったのだと、
伝える人々の言葉も、信じることはできませんでした。
「だって今でもこの身体いっぱいに、
 君のいのちを感じるのに!」
キュロはリマをさがすため、遠く、遠く旅に出ました。
それきり帰ってはきませんでした。

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