長い髪を売るために、少女は髪を切りました。
みな、少女の長く美しい髪を、とても愛しておりました。
けれど少女は髪を売るため、
流れるようなその髪を、ばっさりと切り落とすのでした。

少女は髪を売るために、悪魔のもとへと行きました。
悪魔のすみかへたずねてゆき、
悪魔に髪を見せました。
「これはなんと美しい、
 なんと見事な髪だろう」
けれど悪魔は少女を見つめ、
髪をかかげて言いました。
「けれどおまえは悔やむだろう、
 ここにおまえの幸福の、
 すべての記憶がしるしてある」
悪魔が髪をかかげると、あたりを暗い闇がおおいました。
暗い闇の中で少女は、一生懸命目をこらしました。
すると、まばゆい光が見えてきました。

少女は光り輝く世界に立っていました。
光り輝く世界には、
たくさんの愛しいものたちがあふれていました。
実り豊かな大地、緑はざわめき、
いろとりどりの花にあふれ、
人々は幸せそうに笑っています。
少女にとって、
なつかしいもののすべてがそこにありました。
通りすぎてきたもの、大切にしてきたもの、
あたかかく育んできたもの、
その世界は、少女が大事にした人生のすべてでした。

しかし、ぱっと輝きは失せ、
悪魔のすみかにひきもどされました。
気がつくと、少女はさめざめと泣いていました。
悪魔は少女に言いました。
「今おまえが見たものは、
 おまえが得てきた幸福のすべて。
 おまえがこの髪を切って失った、
 幸福のすべてだ」
少女は切り離した髪を見つめて泣きました。
悪魔は続けて言いました。
「この髪を、なにも失うことはない。
 もういちど、おまえにこの髪を返してあげよう。
 もういちど、おまえの幸福を取り戻すとよい。
 この髪を手放したなら、
 おまえはきっと悔やむだろう」
悪魔は微笑み、少女に髪を差し出しました。
けれど少女は、泣きながら言いました。

「この髪を失えば、わたしはきっと悔やむでしょう。
 毎日泣いてすごすでしょう。
 でも、わたしにはわかっているのです。
 この髪を取り戻したなら、
 わたしは大けがをすることでしょう。
 あの幸福にすがって生きたなら、
 わたしは病気になるでしょう。
 あなたにこの髪を売りましょう。
 あなたに売ったそのおかねで、
 わたしは明日を買うのです」

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「アンダーロココ唄語り」シリーズ、
「夜明けの章」終了です。
またいつか、「真昼の章」が書けたらいいな、
と思います。
とりあえずはまた、普通の詩のスタイルに戻ります。

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