アンダーロココ唄語り:髪を売る少女
2002年2月11日長い髪を売るために、少女は髪を切りました。
みな、少女の長く美しい髪を、とても愛しておりました。
けれど少女は髪を売るため、
流れるようなその髪を、ばっさりと切り落とすのでした。
少女は髪を売るために、悪魔のもとへと行きました。
悪魔のすみかへたずねてゆき、
悪魔に髪を見せました。
「これはなんと美しい、
なんと見事な髪だろう」
けれど悪魔は少女を見つめ、
髪をかかげて言いました。
「けれどおまえは悔やむだろう、
ここにおまえの幸福の、
すべての記憶がしるしてある」
悪魔が髪をかかげると、あたりを暗い闇がおおいました。
暗い闇の中で少女は、一生懸命目をこらしました。
すると、まばゆい光が見えてきました。
少女は光り輝く世界に立っていました。
光り輝く世界には、
たくさんの愛しいものたちがあふれていました。
実り豊かな大地、緑はざわめき、
いろとりどりの花にあふれ、
人々は幸せそうに笑っています。
少女にとって、
なつかしいもののすべてがそこにありました。
通りすぎてきたもの、大切にしてきたもの、
あたかかく育んできたもの、
その世界は、少女が大事にした人生のすべてでした。
しかし、ぱっと輝きは失せ、
悪魔のすみかにひきもどされました。
気がつくと、少女はさめざめと泣いていました。
悪魔は少女に言いました。
「今おまえが見たものは、
おまえが得てきた幸福のすべて。
おまえがこの髪を切って失った、
幸福のすべてだ」
少女は切り離した髪を見つめて泣きました。
悪魔は続けて言いました。
「この髪を、なにも失うことはない。
もういちど、おまえにこの髪を返してあげよう。
もういちど、おまえの幸福を取り戻すとよい。
この髪を手放したなら、
おまえはきっと悔やむだろう」
悪魔は微笑み、少女に髪を差し出しました。
けれど少女は、泣きながら言いました。
「この髪を失えば、わたしはきっと悔やむでしょう。
毎日泣いてすごすでしょう。
でも、わたしにはわかっているのです。
この髪を取り戻したなら、
わたしは大けがをすることでしょう。
あの幸福にすがって生きたなら、
わたしは病気になるでしょう。
あなたにこの髪を売りましょう。
あなたに売ったそのおかねで、
わたしは明日を買うのです」
::::::::::::::::
「アンダーロココ唄語り」シリーズ、
「夜明けの章」終了です。
またいつか、「真昼の章」が書けたらいいな、
と思います。
とりあえずはまた、普通の詩のスタイルに戻ります。
みな、少女の長く美しい髪を、とても愛しておりました。
けれど少女は髪を売るため、
流れるようなその髪を、ばっさりと切り落とすのでした。
少女は髪を売るために、悪魔のもとへと行きました。
悪魔のすみかへたずねてゆき、
悪魔に髪を見せました。
「これはなんと美しい、
なんと見事な髪だろう」
けれど悪魔は少女を見つめ、
髪をかかげて言いました。
「けれどおまえは悔やむだろう、
ここにおまえの幸福の、
すべての記憶がしるしてある」
悪魔が髪をかかげると、あたりを暗い闇がおおいました。
暗い闇の中で少女は、一生懸命目をこらしました。
すると、まばゆい光が見えてきました。
少女は光り輝く世界に立っていました。
光り輝く世界には、
たくさんの愛しいものたちがあふれていました。
実り豊かな大地、緑はざわめき、
いろとりどりの花にあふれ、
人々は幸せそうに笑っています。
少女にとって、
なつかしいもののすべてがそこにありました。
通りすぎてきたもの、大切にしてきたもの、
あたかかく育んできたもの、
その世界は、少女が大事にした人生のすべてでした。
しかし、ぱっと輝きは失せ、
悪魔のすみかにひきもどされました。
気がつくと、少女はさめざめと泣いていました。
悪魔は少女に言いました。
「今おまえが見たものは、
おまえが得てきた幸福のすべて。
おまえがこの髪を切って失った、
幸福のすべてだ」
少女は切り離した髪を見つめて泣きました。
悪魔は続けて言いました。
「この髪を、なにも失うことはない。
もういちど、おまえにこの髪を返してあげよう。
もういちど、おまえの幸福を取り戻すとよい。
この髪を手放したなら、
おまえはきっと悔やむだろう」
悪魔は微笑み、少女に髪を差し出しました。
けれど少女は、泣きながら言いました。
「この髪を失えば、わたしはきっと悔やむでしょう。
毎日泣いてすごすでしょう。
でも、わたしにはわかっているのです。
この髪を取り戻したなら、
わたしは大けがをすることでしょう。
あの幸福にすがって生きたなら、
わたしは病気になるでしょう。
あなたにこの髪を売りましょう。
あなたに売ったそのおかねで、
わたしは明日を買うのです」
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「アンダーロココ唄語り」シリーズ、
「夜明けの章」終了です。
またいつか、「真昼の章」が書けたらいいな、
と思います。
とりあえずはまた、普通の詩のスタイルに戻ります。
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