ダイアリー

2003年2月18日
その日付を燃やそう
わたしはもう あふれかえる日々に耐えられない
気がつけば夜は更けて
心も凍る 寒い部屋の中にいて
小さなカップにあたためた
ミルクをそっとついでみても
割れたグラスが帰るわけでもない

失うことを怖れては
たくさんのものを拾い集めた
たくさんの記憶をよせあつめて作った
それが この小さな冊子
ときにそれは破れて
ときにそれは汚れて
わたしは できるかぎり
花咲く命をふきこんだ
疲れ果てて もうこの文字さえ
解読することは出来ない
見知らぬ国の言語でつづる
あらゆる言葉で名付けられた小冊子
それは とても小さな

その日付に火をともそう
わたしはもう おしよせる日々に耐えられない
ふりかえれば 山のように積まれた
煉獄のような日々の亡きがらに
目の前はこんなにも
からっぽに満ちているのに
なにを耐えて生きたのだろう
わたしは誰だと問うてみても
わたしの背後には
むせかえるほどの記憶がつまっているので
答える声はひとつもない
けれど呼ぶ声も届かない
記憶が鳴り響く この耳元で

たくさんの亡きがらをつれて いつか
封じ込めたはずの場所へ ひとつひとつ
旅ができるものなら
けれど それすら許されない
手のひらにのったコインが
あまりにも重すぎて
せいぜい使い古した定期券で
買ったばかりの安いカードを足して
精算するのがせいいっぱい
その日付は浄化されない
それは過去のものだから

寒い部屋の中にいて
小さなカップにあたためた
ミルクをそっと飲むけれど
雨戸をしっかりと閉めたので
闇夜の空さえ見ることができない
もうすぐ夜明けが来るというのに
いつのことだったか わたしを
恐怖へおとしいれたあの夜明けが
けれど今は 痛くない
むせかえるような日々に
耐えることをやめたから

日は沈み夜は更けて
そしてささやかに夜明けは来る
たとえその光がわたしを裁いても
この魂の奥底にくすぶる闇を消せはしない
不幸だと思ったことはない
あたたかい
この 小さな陶器のぬくもりが
半透明の袋が積み重なってゆく喜び

わたしはこうしてすごしてゆくけれど
なにも不自由なことはない
この耳元で 記憶が鳴り響く
それはとてもうるさいけれど
耳をふさぐこともできる
振り返り なぎ倒すこともできる
呼ぶ声は聞こえなくてもいい
わたしが この冊子を捨てるまでは

光を待つときに限って
暗い雲が天をおおう
わたしは雨音を聞いている
黒く醜い泥をあびても
わたしが嘆き苦しむことはない
わたしに まだ
捨てるものがあるかぎり

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