ある日常

2003年3月14日
揺るぎなき暁が訪れる
生命のかけらもないような軽石が
やわらかい日差しをあびて
あんなにも美しく

この流れる世界が私を
どこまでも連れ去ってゆく
どこまでも超えてゆく
ほんの小さな悲しみを
たやすく運ぶよう

2003年3月7日
街のあかりが見えなくて
きみは 閉ざしていた雨戸を開けようとして
雨戸はとてもかたくて かたくて
どうしても開けられなくて

あまりにも寒すぎて
部屋の中を あたためすぎたからなんだ
雨戸の鍵が膨張して
外の世界を見せてくれない

窓ガラスを割っても
鉄の壁は開かなくて

僕は呼び鈴を鳴らしてきみを
あたたかい洞窟から連れだしてあげる
窓なんか開けなくても
外の世界はここにある

たとえ部屋をあたためすぎたって
足が動かなくなるわけじゃない
そう 思っているだけなんだ
いつでも動く きみの足は

雨を避ける鉄の壁よりも厚い
この扉を軽く開けよう
優しい合い鍵などいらない
呼び鈴を鳴らすだけで
きみは立ちあがる

2003年2月24日
大丈夫だ
ぼくたちは
この場所でつながれている
たとえ地響きとか
洪水とか
そういう信じられないことが起こっても
ぼくたちはいつまでも
この場所でつながれている
二度と訪れることはない
いつか消えてしまうかもしれない
けれど失うこともない
つながれている
ぼくたちは

忘れていてもかまわない
ただ存在したこと
それが事実であるかぎり

ダイアリー

2003年2月18日
その日付を燃やそう
わたしはもう あふれかえる日々に耐えられない
気がつけば夜は更けて
心も凍る 寒い部屋の中にいて
小さなカップにあたためた
ミルクをそっとついでみても
割れたグラスが帰るわけでもない

失うことを怖れては
たくさんのものを拾い集めた
たくさんの記憶をよせあつめて作った
それが この小さな冊子
ときにそれは破れて
ときにそれは汚れて
わたしは できるかぎり
花咲く命をふきこんだ
疲れ果てて もうこの文字さえ
解読することは出来ない
見知らぬ国の言語でつづる
あらゆる言葉で名付けられた小冊子
それは とても小さな

その日付に火をともそう
わたしはもう おしよせる日々に耐えられない
ふりかえれば 山のように積まれた
煉獄のような日々の亡きがらに
目の前はこんなにも
からっぽに満ちているのに
なにを耐えて生きたのだろう
わたしは誰だと問うてみても
わたしの背後には
むせかえるほどの記憶がつまっているので
答える声はひとつもない
けれど呼ぶ声も届かない
記憶が鳴り響く この耳元で

たくさんの亡きがらをつれて いつか
封じ込めたはずの場所へ ひとつひとつ
旅ができるものなら
けれど それすら許されない
手のひらにのったコインが
あまりにも重すぎて
せいぜい使い古した定期券で
買ったばかりの安いカードを足して
精算するのがせいいっぱい
その日付は浄化されない
それは過去のものだから

寒い部屋の中にいて
小さなカップにあたためた
ミルクをそっと飲むけれど
雨戸をしっかりと閉めたので
闇夜の空さえ見ることができない
もうすぐ夜明けが来るというのに
いつのことだったか わたしを
恐怖へおとしいれたあの夜明けが
けれど今は 痛くない
むせかえるような日々に
耐えることをやめたから

日は沈み夜は更けて
そしてささやかに夜明けは来る
たとえその光がわたしを裁いても
この魂の奥底にくすぶる闇を消せはしない
不幸だと思ったことはない
あたたかい
この 小さな陶器のぬくもりが
半透明の袋が積み重なってゆく喜び

わたしはこうしてすごしてゆくけれど
なにも不自由なことはない
この耳元で 記憶が鳴り響く
それはとてもうるさいけれど
耳をふさぐこともできる
振り返り なぎ倒すこともできる
呼ぶ声は聞こえなくてもいい
わたしが この冊子を捨てるまでは

光を待つときに限って
暗い雲が天をおおう
わたしは雨音を聞いている
黒く醜い泥をあびても
わたしが嘆き苦しむことはない
わたしに まだ
捨てるものがあるかぎり

アットホーム

2003年2月2日
僕は
とっても単純な人間のはずなのに
どうしてこの世界は
僕を
複雑にしたがるのだろう
本当は
こたつに足をつっこんで
眉間にしわをよせながら
みかんの皮とか むきたいのに

ひとつの家路

2003年1月31日
僕は
なにも変わってはいない
ただ一日一日順調に
変化しているだけなんだ

飛ぶ影もなく

2003年1月29日
空をななめに流れている
薄く白く 雲が
きっと心なんかないんだ
ぼくたちが悩んで 迷ってゆく
灰色とか茶色とか黒色とかの地面が
まるで届かないような
遠くの未来を見ているんだ

ぼくの背丈がもっと 小さかった頃
なにも知らずにいろんなことで喜んだ
溶けない雪がかなしくて
毎朝泣きながら桜の日を待った

空をななめに流れている
薄く白く 雲が
ぼくたちが悩んで 迷ってゆく
灰色とか茶色とか黒色とかの地面は
今日もやわらかかったりかたかったりするけれど
ぼくは
こっそり命をふきこむんだ

ぼくたちの心が
雪や桜にうもれないように

睡魔

2003年1月27日
睡魔、睡魔がやってくる
黒いマントをひるがえし
ぼくの屋根をおおいかくす
睡魔、睡魔がやってくる

たすけてください神様ぼくは
まだ眠りたくありません
だって
あったかいカーペットに並べたチョコレートが
すべて溶けてしまうから

たすけてください神様ぼくは
まだ眠りたくありません
だって
机の上に書きかけのラブレターを
誰かがこっそり読むかもしれないから

睡魔、睡魔がやってくる
黒いマントをひるがえす
流す涙から逃げるため
睡魔、睡魔がやってくる

ごめんなさい、大丈夫だから
ぼくはもっと強くなる
だからいらない、まだ眠りは

巷の雑草

2003年1月25日
ああかなしみの境地に立ちましたわたくしは、
それはひどくもからくもせせこましくも、
だいぶしぶくなってきましたこぜにを、
いちまいいちまい、
ちゃりんちゃりんと数えているのでございます。
およろこびなさいまし。
どんなに積み上げたものでも、
ちょんとつつけばあっというま。
わたくしの痛んだ髪の毛のように、
あわれに、ちぢんでゆくのです。
およろこびなさいまし。
わたくしは小さな暗がりでコツコツと、
くすんだ銀細工を磨いているのでございます。

Gypsy

2003年1月21日
シンディ、あたしは一度たりとも、
空を飛んだことなんてないのよ。
翼のないこの肉体が、
おとぎ話のような奇跡を呼ぶなんて、
そんなこと、あったためしはいっときもないわ。
あたしはここまで歩いてきたの。
ときに、
たくさんの危険から逃れて、
精一杯走ったこともあったけれど。
あたしはここまで歩いてきたの。
どうして、翼を持った人間たちに、
「たくましい足は似合わない」なんて、
言われなければならないの。
草原は続いているわ。
途方に暮れることもあるけれど。
あたしは、はるかかなたにある、
たくさんの土地を目指して、
ただ、ひたすら歩いてゆくの。

ほら、なんて、
果てしなく広がる世界。

time

2003年1月19日
とても
浅い湖がひろがる
音はなく
風もなく

わたしを呼ぶもの
わたしを踏みとどまらせるもの
そして
歩き出させるもの

危険をかえりみない静寂が
わたしを導き
金の砂に跡をつける
水面はどこまでも輝き
暗闇におおわれることもなく

この世界は
たくさんのものにあふれていて
わたしは何度も足をとられたけれど
こんな
果てしなくおだやかな場所を
見つけることもできるなんて

吊り橋

2003年1月17日
ぼくたちにあったのは
とても細い糸だった
すこし爪先がふれれば
簡単に切れてしまうような
ぼくたちは
そんなあやうい吊り橋を
ずっとわたりつづけていたんだ
向こう岸が美しかった
とてもキラキラと輝いて
まるで夢の世界のよう
ぼくは夢の世界をめざして
つらい橋を渡っていた
細い糸がぷつりと切れて
ぼくは落下した
命運を祈ったが
下に降りてみれば
足になんの痛みもなく
ただ ひたすら道が続いていた
ぼくはどこに行こうとしていたのだろう
あの、幻のような吊り橋で

2003年1月15日
静かな夜がおとずれる
きみはずっと
このときを待っていた
喧噪の中にいて
いつのまにかたくさんの消し炭をつくり
きみはずっと
ちいさな火傷のあとをかぞえていた
静かな夜がおとずれる
そしてようやく
たしかな夜明けがこの部屋をてらす

切り捨てるもの

2003年1月13日
消えないね
この身に一度刻まれた
怨恨は
下手な裏工作をするほど
暇じゃないんだ
単純な方法しか
僕は知らない

真昼の静寂

2003年1月9日
僕はずっと泣いていた
涙があふれて
この地に
海が広がるほど
ごめんね 僕は
気がつけば
とうの昔に
立ち去っていたんだ

君が今でも恋しいけれど

ささやかな嫉妬

2003年1月5日
鉄塔を見上げるきみ
目を凝らして
鉄塔に惹かれているきみ
でも ぼくの愛は
もっともっと高いところにあるよ
だって
ぼくの きみへの愛は
宇宙まで届くミサイルだから
その尖った機体に
爆薬をたくさんつめているから
それはもう
ビッグバンが起こるほど

追跡

2003年1月3日
逃げるんだ
彼が追ってくる
きっと 君を見つけて追ってくる
どこまでも どこまでも
気がつけば間近にいる
君は彼を待ち続けていた
ずっと長いあいだ 待ち続けていた
けれど逃げるんだ
君が求めていたその答えは
きっと
永遠に離れることはない
君が求めていたその人間を
いつか
君は怖れるようになる

満天の闇

2003年1月1日
ふりそそぐ
そこに輝きはない
この地を支える光はない
ただなにもなく
ここにふりそそいでくる
まだ この目にはなにも見えない
光となるのは君
たくさんの人々の目に
暗がりの中 ようやく見いだす輝きは
はるか遠くから
ただひたすら歩いてきた
君がまとう光

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この日記を見てくださっているみなさま、
今年もよろしくお願いいたします。

胸に抱くもの

2002年12月30日
きっと
永久に消えることなどない
わたしの記憶がすべて
わたしという人間だから
あなたも
そして
あの人も

暗い藻の中で

2002年12月28日
知っているかい?
ぼくたちは
つくられたものなんだ
いつか だれかが呼ぶ
帰るべき場所へ
導くだれかがぼくたちを呼ぶ
太陽のひかりが
照らしてくれるのを待っているんだ
間に合ってほしいんだ
ぼくが 連れ去られる前に
ぼくたちは戦わない
ぼくたちは争わない
だからどうしても
ほんとうの力が必要なんだ

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